寿司とわたし

美味しい食べ物と寿司こびととそれ以外です。

たそがれたかこの最終巻で顔のしわがくっきりする角度からライトをあてられて

おじさんおばさんになてもときめくなんて気持ち悪いですか?

 

私がオバさんになっても(シングル・ヴァージョン)

 

恋愛をテーマにしていても、シニア世代が恋愛をする漫画だってあるし年齢差の男女が恋のものだってあります。

現実にも、べつにおじさんおばさんになったら恋愛している人はたくさんいるし最近だと加藤茶さんという年の差どころではない夫婦もいらっしゃいます。

恋は雨上がりのように(1) (ビッグコミックス)

いまアニメ放送中の「恋は雨上がりのように」も女子高生がアルバイト先の中年店長に恋する話ですね。

 

ただ、少女漫画や女性向け漫画では女子高生も成人女性が当たり前のように「恋愛市場では価値がない」とか「おばさんのくせに」とか自ら言ったり言われたりするシーンをよく見かけます。ショートケーキのイチゴの例えとか。

 

逃げるは恥だが役に立つ(9) (Kissコミックス)

 

そんなことないよと言ってくれる漫画ももちろんあります。

大ヒットした逃げるは恥だが役に立つでは若さに絶対の価値があると言い募る女性に「自分に呪いをかけないで」と語り掛けるシーンもありました。

 

恋愛、とまではいかなくても「ときめき」というものに鈍感になることを自分に強いたりあきらめたりするのが当たり前みたいな呪いはどこでかかってしまうのでしょうか。

アイドルが好きでも、あの俳優と結婚したくてもなにも年齢で卑下する必要なんて別にないわけですから。

 

たそがれたかこ(1) (BE・LOVEコミックス)

 

「たそがれたかこ」はそんな風に自分なんておばさんだから、といろんなものをあきらめていたバツイチで母と二人暮らしの主人公たかこさんがきまぐれな夜の散歩での出会いから「おばさん」という残酷だけど楽でもある箱の中から這い出していく物語です。

 

ときめきをとりもどしていくなかで大きな存在が新人ロックバンド「ナスティインコ」の谷在家 光一くん。

彼のラジオを聞いていてもたってもいられず、必死にタワーレコードにたどり着きCDをゲットしてにやにやしたり、録音を聞いて癒されたり。

 

公式でも言われていますがこのバンドのモデルはクリープ ハイプであり谷在家 光一くんは尾崎世界観さんがモデルになっています。

世界観(通常盤)

 

このバンドを好きになったところから、自分が住み込み大家をしているアパートに住んでいる中学生のオーミと仲良くなったり初めてライブハウスに足を踏む混んだりとそれまでにはなかったような、思いもしなかったようなことがたくさんおこります。

 

自分を「おばさん」ではなく「たかこ」という人間として生きていくうちに、ああ自分はあのときずっと我慢していたんだずっとそんなふうにしてきたんだ!と人生の色んな瞬間を振り返ってたかこは気が付きます。

 

夜の散歩で出会った不思議な中年男性美馬さんは、近所で居酒屋をやっていてちゃらんぽらんな雰囲気と色気をふりまきながらお客さんと一緒にたかこのかわっていく日常を聞いてくれます。

美馬さんは、若くてきれいできまぐれな劇団員の女の子とどうも付き合っているようでにこにこしながらその女の子を可愛がって大事にしてもいます。

おじさんなのに気持ち悪い、どころか恋人になっている二人がいるわけです。

 

元夫のこと、最近学校にいっていない娘のこと自分のペースでしか話しかけてこない母親のこと。

もう若くないたかこさんは学校とか習い事とかないかわりに、そんな日常に振り回されながらも自分のときめきを育てていきます。

 

ふんわりしたかわいい絵柄も相まって、つらい展開もそこまでショッキングな感じもせずたかこさんもなんだかだんだんくぁいくなってきちゃってみたいに読めるこの作品ですが、最終巻でたかこさんはある決断をしました。

たそがれたかこ(10) (BE・LOVEコミックス)

 

 

それまでふんわりと描かれていた「おばさん」だとか「ときめき」だとかがいきなりスポットライトをあてられて、しわしわになった手とか年齢相応にくたびれた顔とかそういうものがくっきりと照らし出されます。

 

おじいちゃんおいばあちゃんのことは好きだけど、握手した時にあまりにも手がしわしわで驚いて思わず手をひっこめるような罪悪感と死に近い生き物にさわった恐怖感と手触りの生理的な気持ち悪さ。

それでもおじいちゃんおばあちゃんが好きで、だんだんその手にも慣れて最初の気持ちはなかったことみたいにするし実際平気になっていくけどずっとどこかに残っている。

そんな手触りを思い出します。

 

人によっては受け入れられない展開だろうし、自分もこの最後のシーンすごい良かったー!!とは言えません。もやもやします。

ただ、これはたかこさんの話で、そうやってある程度生きてきたたかこさんがそういう中年である自分の存在を誰かが見て笑うという誰でもない「誰か」から決別して自分の好きなようにしたという話としてすごく好きです。

 

全人類いずれ年をとるなかで、「おじさん」にも「おばさん」にもなる必要なんてない。

そうやって誰かがつくったような形にはまるのは、楽でもあります。ときめくのはなにせものすごく疲れる事でもあるから。

それでも、そのなかにいる限りはできないことが残念ながら沢山あります。

ミニスカだってニーソックスだっていくつになってはいてもいい、高級な時計をみにつけなくてもいい。そういう気持ちにで人を見るなれる自分でありたい。意外性なんて感じないでどんなものにも驚かずに受け入れたい。

 

10巻で完結しているのでぜひ読んでいただきたい。

そして自分と同じように最終巻を読んでスポットライトをあびてほしい。